Story 01:学びの道 バイオミミクリーとの出会い
新しい
サステナビリティの潮流
私がバイオミミクリーの世界に出会ったのは、2015年にアリゾナ州立大学にてサステナビリティリーダーシップの修士号を学んでいる時でした。新しいサステナビリティの潮流として未来を感じる概念でした。また、クラスメイトの一人が、建築とバイオミミクリーを掛け合わせたサステナブルなデザインを実践している事を聞いた時、純粋にワクワクが止まらず、もっとこの世界を知りたいという純粋欲求が湧いてきたのを覚えています。
ただ当時、自分にとっては専門性の高い存在であり、その先自分がこの世界に深く踏み入れていくとは思いもよりませんでした。
その後、海外のサステナビリティ関連のカンファレンスに参加した際に、改めてバイオミミクリーの世界に出会うことになりました。
デトロイト、バンクーバーで開催されたサステナブル・ブランド国際会議では、サーキュラーエコノミーの実践アプローチとしてバイオミミクリーのセッションが毎回設けられておりました。また、アリゾナで開催されたGreenBizにおいては、カンファレンスの中でバイオミミクリーのフィールドトリップまで企画されており、多くのビジネスリーダーたちがアリゾナの砂漠の大地で自然と繋がる機会を求めているようでした。
驚くことに、バイオミミクリー関連のセッションはいつも立ち見が出るほどの大盛況で、その熱量は年々増しているようでした。サステナビリティの文脈で既に多くの企業や組織が自然の叡智から学び、イノベーションを生み出し始めていることに驚きと嬉しさと未来の可能性を強く感じました。
ミッションとしての確信
セッションが終わった後、迷わず登壇者へ歩み寄り、どうしたらこの世界を学べるか?ビジネスのバックグラウンドの自分が何ができるのか?と無我夢中で質問をしたことを鮮明に覚えています。
その後、バイオミミクリーの創設者の一人であるジャニン・ベニュスの映像に出会いました。モンタナ州にある彼女の自宅の池の辺りで、彼女が描くバイオミミクリーの世界観を語る様子。緑と水面が光で輝き、高原に住む軽やかな鳥の囀りが聞こえてきます。 彼女は、「我々人間は地球の歴史上とても若い種であり、メンターである自然という存在からもっとたくさんのことを学ぶことができる」、「私たちがゼロからイノベーションを起こさなくても、既にその発明をしている存在が実は目の前にある」と教えてくれました。
サステナビリティに向けた組織と人の変容を願っていた自分にとって、絶望感や怒りのエネルギーではなく、愛に満ち溢れた可能性と謙虚さを感じるエネルギーでした。
単なる便利さを追求するイノベーションではなく、知識やスキルだけではないバイオミミクリーの世界の広がりと深さに気がつき、自分の中で「面白そう」という好奇心の意識レベルから、「地球に対する私の最後のお役目」というミッションとしての確信に変わりました。そして、2018年秋にバイオミミクリーを学べる唯一の大学院に出願。翌年1月から約18ヶ月の学びの旅が始まったのです。
大きなチャレンジ
生物学やエンジニアリングのバックグラウンドのない自分にとって、英語でこの領域を学ぶことは大きなチャレンジでした。 これまで経験したことがなかった生物学の論文を英語で読むアカデミックの側面もありながら、常に自然のフィールドと繋がり、気づきを得ていくプロセスは自分にこの領域でのバランス感覚をもたらしてくれたと思います。
そして無事、2021年8月に日本人として初めてバイオミミクリーの大学院資格を取得。バイオミミクリープラクティショナーとして、「人間社会の課題」と「自然界の叡智」をつなげる橋渡し役として活動を始めています。 日本における啓蒙活動に留まらず、日本にある叡智を世界に発信していくような世界と繋がるハブとしての役割も担っていきたい想いも重なり仲間とこの組織を立ち上げました。
Story 02:原体験大自然から得た気づき
そもそも、何が
私をバイオミミクリーの世界に
連れてきたのか?
その源泉は、自分の中にある五感で感じた自然との繋がり、原体験がエッセンスとしてあります。幼少期を北海道で過ごした私は、大自然と触れ合う事が日常でした。家の前が山だった事もあり、学校帰りには毎日のようにスキーや雪遊びをしました。手足が真っ赤にかじかんでも、真っ暗になるまで夢中で遊んでいました。
春、雪が溶けアスファルトや大地にまた出会えた瞬間の嬉しさは今も鮮明に記憶が残っています。魚釣りにも目覚め、早朝1人で川に向かい一日中釣りをしていました。全く釣れなくても不思議と頭の中で水の中をイメージしているだけで十分楽しかったです。純粋に自然が大好きであり、自然と共にたくさんのことを学んできました。
再び自然とつながる
大人になってからも、常に自然とつながる自分がいました。30代の頃、アメリカ国立公園の年間パスを入手して、1人で全米を縦断しました。 当時、オレゴン州のビジネススクールに通っていた自分は、毎日の勉強のストレス、異文化環境における孤独感、そして何よりもサラリーマン時代に失ってしまった自分らしさを取り戻したい葛藤の中にいました。無意識に自然に還りたい欲求があったのだと思います。
スマホもない時代、紙の地図を頼りに真っ直ぐなアメリカの大地を走り続けました。旅の途中、国立公園でキャンプをした時です。一人焚き火をしながら、火の温もりと煙の匂いが私を包みました。日が沈む頃、山と空の陰影が際立ち、満点の星が夜空を覆い始め、遠くでは野生の動物の鳴き声も聞こえてきます。
自分がもつテクノロジーはそこでは何の役にも立たず、この地球の存在の大きさに無力感さえ感じました。それは、自分が自然界における一つの生命体に過ぎないという不思議な悟りを得たような感覚でもありました。
人間社会と
自然の世界をつなぐ橋渡し役
40代の頃、セドナという神聖な場所でシャーマンの教えを一人で学ぶ体験もしました。その時はアリゾナ州立大学院でサステナビリティを学んだ卒業式の後で、改めて自分の存在意義とビジョンを描きたく、改めて自然や大いなる叡智と繋がる選択をしました。
3日間におけるシャーマンの教えを学んだのち、日本へ帰国する最終日の朝に、一人のスペースを意図的に作ろうと決心しました。ベルロックという巨大な岩山を登りながら、自分にとってのマイスペースを探しました。そして、大地が一望できる少し平らな居心地の良さそうな場所に導かれるように座りました。
地面はひんやりと冷たいのですが、アリゾナの強い太陽の光が暖かく、そして力強く自分を照らしてくれました。 私には特別な力やギフトがあるわけではありませんが、偉大なる自然の存在を全身で感じる中、もっとこの自然の世界と人間社会を繋げていく役割を自分が担っていく、そんな橋渡しの役割を担っていく自分のイメージ、言葉が、降りてきたのを記憶しています。
抱いていた違和感
私はこれまでサステナビリティ・リーダーシップコンサルタントとして、サステナビリティの世界をビジネスの文脈で伝えていく活動を続けてきました。大企業の経営陣と共にSDGsを切り口とした中期経営計画策定のお手伝いであったり、人材育成と組織開発の文脈で数多くの研修、理解浸透のワークショップを届けてきました。日本でのサステナブル・ブランド国際会議で毎年登壇する機会も頂く中、いつも使命感を持って取り組んできました。
SDGsやサステナビリティの認知はこの数年で飛躍的に高まったと思います。SDGsが生まれる前に、その前身であったMDGsやサステナビリティの言葉をビジネスリーダーたちに伝えても、正直あまり受け入れられませんでした。今では、国レベルの活動から、自治体、企業レベル、そして学校教育においてもあたりまえの領域になったと思います。
しかし、どこか組織の役割としてだけの声であったり、表面的な活動のような違和感を感じることもあります。恐らくそれは、人間界と自然界が常に物理的、精神的に分断された状態で、事業活動だけが主たる目的で取り扱われる事が多いからではないでしょうか?
以前、バンクーバーで開催されたサステナブル・ブランド国際会議にて、自然との分断という文脈で、アウトドアブランドのREIのブランドマネージャーの言葉が今でも記憶に残っています。 「自分が関心を持たないものは誰も守らないし、自分が経験したことのないものは誰も関心を持たないもの」だと。
私は「自然との繋がり」がない中で、本質的なサステナビリティ変革は生まれないと思います。かと言って、想いだけでは世界は変わりません。 具体的なソリューションも必要なのです。自然への想いを醸成しながらも、しっかりと解決策を創造していく。そんな役割を担いたく、私はこの世界に入り込んだのです。
Story 03:教育とは子供との関わりの中で
レンズを変える、
ひとつのアプローチ
大学院の学びの中、私は家族と共に自然に触れ合う機会が圧倒的に増えました。子供達からNHKの生き物番組を教えてもらい、一緒に楽しみ、学ぶ時間も生まれました。 ある時、私の宿題でのリサーチ中に、「水を効率的に吸収する生き物って何か知らない?」と息子に尋ねると、あの生き物と、あの生き物がいるよ!って目をキラキラさせながら教えてくれることもあり、嬉しくもあり、誇らしく感じました。 実は子供の方が、生き物のことをよく知っているようです。図書館、書店に行っても、子供向けの生き物関連、バイオミミクリーに関する書籍がたくさんあることにも驚きました。
認知の変化が、
行動の変容を促す
自然とつながる体験をすることで、自然に対する解釈、認知が変わり、それが行動変容につながることも子供達から学びました。 以前、養蜂場でミツバチの生態について学んだ時です。ネットで遮った防護服のような服を来て、ミツバチの巣箱に実際に観察したり、蜂蜜をなめたり、体験から学ぶ機会でした。 最初は怖がっていた子供達も、だんだんミツバチの世界に魅せられ、最後はまったく臆せずミツバチと共にいる様子でした。
その経験の後、ある日自宅の庭にミツバチが飛んできた時です。いつもは怖がっていた息子が、「あ、かわいい!」と言葉を発したのです。 まさに認知の変化が、行動や態度を変えた瞬間でした。 自然と繋がるアプローチは色々とある中で、私はバイオミミクリーを通して、リアルな自然の世界へ誘い、好奇心からの学び、体験を通して認知が変わり、小さな子供たちの自然に対する態度が変わることも支援していきたいと思っています。
バイオミミクリーは自然からの叡智から学び、イノベーションを生み出す思考や手法でありますが、それは本質的なゴールではないと思っています。
子供から経営者まであらゆる人たちが、バイオミミクリーをきっかけに自然との繋がりが再び生まれ、内から沸き起こる興味関心からの原体験、自然界への理解の深まり、認知のメガネが掛け替えられ、意識と行動の変容と繋がっていくことを目指しています。
それこそが、本質的な循環型・再生型社会を創り出すサイクルに結びつくと私は信じています。